プロジェクト詳細

藝大の森プロジェクト

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藝大の森プロジェクト

〜東京藝術大学上野キャンパス環境改善の取り組み〜

2016年から大学の外周の柵に代わり、植栽による柔らかな境界をつくる取り組み「藝大ヘッジ」を進めています。上野公園側の境界からスタートし、大学キャンパスを縦貫する旧屏風坂通り沿いへと段階的に延伸しています。四季折々の表情を見せる落葉常緑をおりまぜた武蔵野在来の植生から約40 種を選びました。苗木は学生・教職員・OBOG・一般の方々有志自らの手により植え付けられ、数年かけて刈り込みながら多様な表情を見せる生垣に育てます。

■「藝大の森」プロジェクトのはじまり
2013年に策定された、「藝大上野キャンパスマスタープラン2013」ではキャンパス環境が芸術教育に与える重要な要素であるとして評価し、その整備の重要性と、整備の方針が打ち出されました。その矢先、2014年2月の大雪により東京地方は各所で大木が雪の重みで倒れたり枝が折れるなどの被害がありました。キャンパスの中でもとりわけ古代から武蔵野の面影を残す「奥の細道」でも同様に森を覆っていた高木が大きな被害を受けました。マスタープランに準じてこの森を再生すべく、森を構成する樹々の状況を分析したところ、長らく手をつけずにいたことにより、この森が実は極相林となり多様性が乏しい状況と、外来種の勢力により健全性が乏しくなっていきていることがわかりました。そこでこの森を「保存林」と定め、ここを本来の豊かな植生へ戻していく取り組みを始めることとなりました。2014年春に関東在来種に限定した落葉樹・常緑樹の多種多様な苗を取り寄せ、学生・教職員で植樹をしたことが始まりで、計3ヵ年にわたり実験的に植樹を行い、今年(2024年)で10年となります。

■藝大ヘッジ
大学を囲う黒い鉄の柵は50年程前に整備されました。長い歳月で鉄が錆び、老朽化が目立つようになってきたことから、2016年に新たに柵を作り直す検討の際、生垣で置き換えるのはどうか、というというアイデアから藝大ヘッジは始まりました。上野キャンパスマスタープラン策定に協力していただいた、ランドスケープデザイナーの田瀬理夫氏に指導をあおぎ、それまで実験的に取り組んできた、保存林の再生の考え方を取り入れ、武蔵野の在来種を用いた低い生垣、「刈り込み」を形作る基本的な方針が出されました。京都の修学院離宮にある「大刈り込み」(写真)をモデルに、一つの緑の塊が数十種類の多種多様な樹種で構成され、それを腰高で常に刈り揃えるというものです。

京都 修学院離宮「大刈り込み」

東京藝術大学は、創設時の東京美術学校、東京音楽学校の頃からキャンパスの周囲を塀で囲ってきました。明治の頃は土塁に竹垣、昭和初期は万年塀、70年代のキャンパス大改造の際に鉄の柵が整備されました。それらの囲いは防犯の役割を果たしてきましたが、反面、大学内部の様子を伺い知ることは難しく、敷居の高い雰囲気を醸し出していました。
一転、低い生垣による新しい囲いは、敷地の内と外を視覚的に繋ぐことができるのではないかということから、セキュリティとの両立が可能かどうか、果たしてうまく育つのか、などいくつかの不確定要素を含む実験的な試みとして採用されました。

■みんなで植える
苗木を植える作業を業者任せではなく、学生・教職員・卒業生、そして近隣地域を含む一般のボランティア自らの手による植樹ワークショップとしました。数十種類の苗木をひとつひとつ丁寧に植えることで、親みと愛着を生むことができます。

■お手入れをすることで美しさを保つ
植えただけで終わらないのが「藝大の森」です。音楽、美術に関わらず豊かな緑は学生たちにとても大きな刺激を与えています。かつて構内には植物園が整備され、園丁がお手入れをして学生たちにモチーフを提供していました。いまはそのような場は無くなってしまいましたが、藝大ヘッジでは数十種類の草木が萌え、花が咲き、新緑、紅葉、結実、落葉、冬枯れと日本の四季を感じさせてくれています。
こうした緑を美しく保つには手入れが欠かせません。これも業者任せにせず、きめ細かく手をかける取り組みをしています。現在、「お世話隊」という学生有志と地域ボランティアの方々によるお手入れを月に3回実施しています。樹種によって生育のスピードや他を圧倒する勢いなど、かなりの差があります。それをある程度お手入れをすることで密実な植栽帯をかたちづくります。学生有志は音楽・美術に隔てなく、植物が好きなものが集まり、思い思いに枝葉に触れています。ある学生は伐った枝先を持ち帰ってモチーフにしたり、制作の材料にしたり、また、レッスンのあとのリフレッシュに、と緑とのさまざまな接し方をしています。

■地域にひらかれた空間を拡張
藝大ヘッジでは、毎年少しずつその距離を伸ばしています。今年度の植樹で東京藝術大学の前の通りはほぼ緑の帯に置き換わります。今後はさらに上野桜木町に面した塀も藝大ヘッジ化していくことで、まちに溶け込んだ空間をさらに拡張していきたいと考えています。
本プロジェクトは芸術を学ぶ学生の豊かな感性を育むことのみならず、地域社会のみなさまにも心地の良い空間を共有し、共に創ることのできる可能性を持つ実験的な場として捉えています。ぜひともご理解とご賛同をいただき、ご支援とご協力を賜りますようお願い申し上げます。

■謝意のご案内等
・藝大ヘッジではご寄附の謝意として、植樹の度に協力された方のお名前を刻んだ銘版を設置しています。ご寄附の多寡に関わらず銘板にお名前を掲出する予定でおります。

■「藝える」こと
本学の機関誌である「藝(う)える」の第15号にこの「藝大の森」が特集されました。2024年11月現在、本学正門の守衛所で無料にて配布しております。また、本学ホームページでもPDF冊子がダウンロードすることができますので、ぜひお手に取って、この豊かな藝大の森と、それに刺激を受ける学生たちの様子を知っていただければ幸いです。
リンク>https://www.geidai.ac.jp/information/publication/pr_magazine

■日々の活動を発信しています
お世話活動や植樹活動などをfacebookやInstagramで発信しています。
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